気づくことから始めよう〜バリアフリーを学ぶ4つの視点〜
バリアフリーという言葉を、あなたはどのように感じていますか?
この言葉が存在する背景には、「困っている人」が確かにいるという現実があります。
私は24歳のとき、交通事故により脊髄を損傷し、車椅子での生活を送るようになりました。
健常者として過ごした時間が長かった私は、初めて「バリア」がこんなにも身近にあるということに気づいたのです。
当時(2000年以前)は、障害に対する理解も今ほど進んでおらず、街はバリアだらけ。外出するだけでも大きな覚悟が必要でした。
そこから20年以上が経ち、社会は少しずつ変わり始めています。
しかし、「目に見えるバリア」が減ってきた一方で、今も解消されていないバリアがたくさん残っています。
それはなぜか?――
日常生活の中で、障害のある人と接する機会がない限り、多くの人はバリアの存在に気づくことができないからです。
たとえばこんな場面、見たことはありませんか?
- 身障者用トイレを使ってしまう一般の方
- 点字ブロックの上に自転車を停める人
- 身障者用駐車場に平然と停める車
これらの行動は、「知らないからこそ起きている」のです。だからこそ、バリアについて“知る”ことが、最初の一歩になります。
このページでは、私自身の経験も踏まえながら、社会の中にある「4つのバリア」についてお伝えしていきます。
バリアフリーを学びたい方はもちろん、「誰かの役に立ちたい」「もっと人にやさしい環境を作りたい」と思っているあなたにも、きっと何かヒントになるはずです。
では、まずはバリアにはどんな種類があるのかを一緒に見ていきましょう。
1. 物理的バリアとは
物理的バリアとは、目に見える障壁のことです。
たとえば車椅子を使っている方にとって、段差や狭い通路、設備の不備は日常生活に大きな支障を与えます。
けれど、そうしたバリアの多くは、「当事者にならないと気づけない」というのが現実です。
しかし、近年はバリアフリー化を進める施設や店舗も増えてきています。
それは、“利用しやすい=選ばれる理由になる”という考え方が広がっているからです。
ここでは、実際によくある「物理的なバリア」を4つの例で紹介します。
① 多目的トイレがない
車椅子利用者が一般のトイレを使うのは、構造上とても困難です。
そのため、広さや手すりのある多目的トイレが必要不可欠です。
また、障害の種類によっては、オストメイト対応設備やユニバーサルベッドがないと排泄やおむつ交換ができない場合もあります。
それらが備わっていないことは、単なる「不便」ではなく、利用を諦めざるを得ない重大なバリアとなるのです。
② 段差・階段がある
お店の入口にあるわずかな段差――
それが車椅子にとっては「入店を断念せざるを得ない壁」になることがあります。
2段以上の段差があると、介助者がいない限りはその先に進むことができません。
段差解消の工夫(スロープの設置など)があるだけで、誰もが利用できる空間になります。
③ 身障者用駐車スペースがない
多くの車椅子利用者は、公共交通機関よりも自家用車を使う傾向にあります。
その際、乗り降りのために横幅のある駐車スペースが必要になります。
しかしそのスペースが確保されていなければ、「行きたいのに行けない場所」となってしまうのです。
さらに問題なのは、一般の方が身障者用スペースを安易に利用してしまうケース。
これは「心のバリア」にもつながる重要な課題です。
④ 通路が狭い
車椅子の幅はおおよそ60cm前後あります。
それに対して、人とすれ違うには最低でも90cm以上の通路幅が必要です。
たとえば職場で、通路が狭いために同僚の席へ行けないとしたら…
ちょっとした用事すら毎回誰かにお願いしなければならなくなるのです。
こうした状況は、業務効率や心理的な負担にも影響します。
だからこそ、相手の立場で設計や配置を考える視点が求められます。
2. 制度的バリアとは
制度的バリアとは、法律や制度、社会の仕組みによって生まれる不平等のことです。
たとえば、
- 「盲導犬がいるから入店できない」
- 「障害があるから受験できない・就職できない」
といった対応は、制度によって門前払いされる例です。
本来、身体的な配慮を行えば可能なことであっても、「健常者と同じ条件でなければいけない」という思い込みがバリアを生んでしまうのです。
大切なのは、すべての人に「平等に挑戦できる機会」が与えられること。
これが、ノーマライゼーション(障害の有無に関係なく、共に生きる社会)という考え方の根幹です。
社会全体が、「特別扱い」ではなく「配慮」として受け止める姿勢が求められます。
3. 文化・情報面のバリアとは
文化・情報面のバリアとは、情報や文化にアクセスする際に起きる困難を指します。
たとえば、
- 新聞、時刻表、家電の操作が視覚障害者には読めない
- 駅のアナウンスや警報音が聴覚障害者には聞こえない
- ATMやタッチパネルの操作が見えづらい・わかりづらい
など、日常生活のなかに情報格差が存在します。
特に近年では、音声で知らせるJアラートや緊急地震速報もありますが、音だけでは聴覚障害者には届かないという課題もあります。
こうしたバリアは、「見えない」「聞こえない」ことを前提に設計されていない社会構造が原因です。
だからこそ、「誰にとってもアクセスしやすい情報のかたち」を考えていくことが、情報バリアを減らす第一歩です。
4. 意識上のバリアとは
意識上のバリアは、“心の中にある壁”とも言われます。
つまり、「障害のある人=かわいそう」「自分とは関係ない」といった無意識の偏見や無関心がバリアになるのです。
たとえば、こんな場面を見たことはありませんか?
- 身障者用駐車スペースに一般の方が停めている
- 多目的トイレを健常者が使って長時間占有している
- 点字ブロックの上に自転車が置かれている
これらはすべて、バリアフリーに無関心な人々の行動によって引き起こされています。
ですが、誰しも最初から完璧な理解があるわけではありません。
「関心をもつこと」こそが、心のバリアをなくす第一歩なのです。
職場でも、意識のバリアを取り除くためには、ダイバーシティ(多様性)教育が重要です。
さまざまな背景を持った人が共に働くことで、他者を理解する力が育ちます。
1人でも多くの人が「気づく」ことで、やさしくて暮らしやすい社会がきっと実現できます。
★もっと知りたい方は、YouTubeチャンネル「バリアフリースタイルTV」もぜひご覧ください。