職場の空調設定が命取りに?脊髄損傷者と“働く環境”に必要な配慮とは
バリアフリーアドバイザーの白倉栄一です。
今回は、職場で車椅子利用者──特に脊髄損傷者を採用・共に働くうえで、空調管理という視点から気をつけたいポイントをお伝えします。
今年は冷夏の予報もありますが、梅雨が明ければ気温はぐんぐん上昇していくでしょう。
そんな中、見落とされがちなのが夏場の空調設定です。体温調節機能に制限のある方にとっては、生命にも関わる重大な問題になることがあります。
節電の落とし穴──室温28度設定が危険を招くケース
企業の節電対策で、冷房を28度に設定したり、そもそも冷房をつけないという方針を見かけることがあります。
私自身、かつて「うちわ配布」で暑さをしのぐという社内方針のもと、冷房なしで仕事をしていた経験があります。
売場はお客様対応のため冷房を強めに入れていても、バックヤードでは電気代節約のために無風状態──結果、体力も集中力も消耗していく日々でした。
当時は今のような猛暑ではなかったとはいえ、職場全体の作業効率が確実に低下していたのを覚えています。
これが脊髄損傷者であれば、状況はさらに深刻になります。
脊髄を損傷すると、発汗機能が制限されることが多く、身体の熱を外へ逃がせない状態に陥るのです。
私自身、下半身は汗をかかず、上半身でも汗が出るのは限られた部位のみです。
頸髄損傷の方であれば、ほとんど汗をかけない場合もあり、こうした方にとって「空調が効かない職場」は熱中症のリスクが飛躍的に高まる環境です。
「扇風機+エアコン」でも守れる命がある
たとえば、脊髄損傷者がトレーニングするジム「J-Workout」では、エアコン+個別の扇風機を標準対応としています。
その理由はもちろん、熱中症を防ぐため。施設側が利用者の身体特性を理解しているからこそ実現できている対策です。
こうした情報は、意外にも一般の方には知られていないのが現状です。
しかし、職場で共に働く仲間のことを少しでも知り、気にかけることができれば、体調不良や事故のリスクを未然に防ぐことができます。
かつて私の近くでも、冷房設定を巡って意見が通らなかった結果、健常者の従業員が熱中症で救急搬送されたというケースがありました。
「みんな我慢してるから」「気合いで乗り越えるべき」という昭和的マインドのままでは、時代に合った職場づくりは難しいでしょう。
障害の有無にかかわらず、誰もが安心して働ける職場へ
脊髄損傷など身体機能に制限のある社員が快適に働ける環境は、結果として全社員にとっても快適な職場になります。
空調の適正設定は、その第一歩です。
これから暑さが本格化する季節。
ぜひ今一度、職場の空調管理と熱中症対策を見直してみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「共に働く」ことは、違いを理解し合うことから始まります。
小さな配慮が、大きな信頼につながることを、ぜひ知っていただけたら嬉しいです。
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