車椅子の旅行範囲を広げることが最高のバリアフリー ~ハンドコントロールが大きく変えた~

2018.10.26 (金)

2020年東京五輪・パラリンピックまであと2年。国内のバリアフリー化は公共交通機関の整備が進んできていることから、車いす生活をしていても外出しやすい社会になってきている。しかし旅行という観点になると、バリアフリーの課題は多く残っている。一般の旅行者にとっては、パックツアーなどが充実しているので、旅行の手配は容易なことだが、車いす利用者にとっては、3つの条件が成立しないとせっかく計画した旅行が中止になってしまう。「飛行機や新幹線などの手配」、「宿泊施設の確保」、「空港や駅からの交通手段の確保」である。しかも利用できる選択肢が一般の旅行者に比べて少ないことから、3つの条件がうまく組み合わさる確率は低くなる。

 

そういった中で今回取り上げるのは、3つ目の空港や駅からの交通手段の確保の部分において、大きく変わるものである。しかも従来の旅行よりも格段に行動範囲が広がる運転装置を紹介したい。自分で車を運転したい車いす利用者にとっては、持ち運び可能な重さで、現地のレンタカーに簡単な脱着ができる最高のアイテムだ。しかも一般の人はもちろんのこと、多くの車いす利用者の間でもあまり知られていない逸品だ。

車いすの旅行では3つの条件の成立が必要となる

まず車いす利用者の旅行の手配に必要な3つの条件について、知っていただきたい。3つの条件の中でも、手配をする上でほぼ確実なのが、飛行機や新幹線などの手配である。航空会社についてはネット予約が可能で、お体不自由デスクのような専門窓口が設けられており、飛行機への搭乗における相談が気軽にできる点はとてもありがたい。新幹線の対応は、みどりの窓口のみとなっているため、飛行機のようにネット予約ができない点やみどりの窓口でのチケット購入に時間がかかる点に不自由さを感じるものの、繁忙期でなければチケットを確保できないわけではない。

 

2つ目の宿泊施設の確保については、未だバリアフリーの情報開示が少ないために、各宿泊施設がどのようなバリアフリー対応されているのかが分かりにくい。そのためネット社会であるものの、利用したい宿泊施設に直接電話をかけてバリアフリールームの有無を確認しなければならない点が不便である。金・土曜日の宿泊になるとバリアフリールームが満室になっているケースが目立つものの、余裕をもって予約すれば何とか確保することはできる。

 

3つ目の空港や駅からの交通手段については一番の難しい点である。飛行機や新幹線に乗って旅行をしても、空港や駅からのアクセスが厳しい状況に陥る。特に、空港から多くの人が利用する高速バスにおいては、バリアフリー化が進んでいない。そのほとんどが路線バスのような低床式のノンステップバスではないため、車いすに座ったまま乗車することができない。車いすを折りたたんで乗車することになり、立位・歩行ができる人に限られてしまう。やっと最近になって、東京空港交通の「東京シティ・エアターミナル~羽田空港国際線」間にリフト式バスが導入されたことで、高速バスのバリアフリー化も始まった。今後は2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、他社のバス会社においても導入されることを期待したいところである。

 

高速バス以外の手段となった場合、タクシーという選択肢もあるが、旅行費用がかかることも大きな課題ではあるが、タクシー乗務員への教育が遅れていることもあり、乗車拒否に遭っている車いす利用者も少なくない。そこでレンタカー事情はどうかというと、大手レンタカー会社では車いす利用者を助手席もしくは後部座席に乗せるタイプのものは、既に導入済みではあるものの、車いす利用者自身が運転する手動運転装置には対応されていない。

手動運転装置がある限り、車いす利用者でも運転ができる

一般の方はご存知ないと思うが、手動運転装置というものは、一般の自動車のアクセルペダルとブレーキペダルに装置を取りつけることで、足ではなく手によって前方に押せばブレーキ、手前に引けばアクセルといった単純構造になっている。これがあれば車椅子利用者が自らドライブを楽しめるように手だけで運転できるのだから優れたアイテムである。

 

一部の企業において、手動運転装置付のレンタカーを用意しているものの、全国に限られた数しかないのが現状である。そのため車いす利用者が単独で旅行または出張する場合においては、大きな壁が立ちふさがっている。そのため自分の行きたい空港ではなく、手動運転装置付のレンタカーを調達できる空港に降りなければならないのだ。

 

全国に手動運転装置付レンタカーを用意している企業に対しては、車いす利用者にとってとてもありがたいことであるが、大概はレンタカー事業を専門にしているところではないため、修理工場などの仕事の傍ら、レンタカー対応をしてくれているだけに、所有している台数も少なく、繁忙期となると確保しにくくなる点がある。また空港に近いところに企業があるとは限らないので、空港までの回送料金(往復)がかかるケースがほとんどだ。往復で1万円くらいはかかってしまうのは、利用者にとって痛い出費となる。

 

そういった事情からわざわざ難しい選択をするのであれば、自宅から遠い場所までマイカーで行こうとする車いす利用者も少なくない。もちろん乗り慣れている車のほうが運転しやすいのは間違いないが、九州・北海道のような遠隔地となると気軽にマイカーで行くことは難しくなるだろう。

ハンドコントロールによって旅行できる場所が広がった

車いす利用者にとっては厳しい環境の中で、ハンドコントロールが車いす利用者の旅行を変えた。持ち運びのできる手動運転装置「ハンドコントロール」である。神奈川県川崎市にある㈱ニコ・ドライブが開発したアイテムで、重量は900グラムと軽量であり、折りたためる優れものである。車いす利用者でも持ち運びをすることができ、ほとんどの車種へ脱着することも簡単だ。

 

このアイテムがあれば、空港や駅にある大手レンタカー会社で車を借りることができる。大手レンタカー会社も配線を動かしたりしないのであれば脱着しても構わないとの回答をしているから安心である。これによって車いす利用者における全国各地の旅行や出張が可能になり、とても革命的なアイテムだ。

 

取り付け方法はシンプルで、工事は不要。工具も使わずその場ですぐ簡単に脱着可能である。ハンドコントロールをアクセルとブレーキのペダルにはさみこみ、2つのノブを回して緩みのないようにきちんと締めるだけ。利用したことのない人にとっての不安に感じているのが、運転している最中にペダルから外れてしまうのではないかと思いがちだが、2重ロックになっているので、外れてしまうことはない。

 

そしてハンドルには旋回ノブを取り付ければ、あっという間にハンドコントロールの取り付けが完成する。価格は約10万円であり、前述の手動運転装置付のレンタカーを借りるための回送料金や余計な交通費を考えれば、数回利用すれば元がとれてしまうだろう。

 

私はこのハンドコントロールを購入してから、旅行の範囲が大幅に変わり、今までは行けないと思っていた地にも訪れることができた。昨年行った沖縄県の石垣島がそうだった。沖縄本島であれば、手動運転装置付のレンタカーを貸してくれる企業もあるが、さすがに離島となると全くない。そのため石垣島へは行くことができないと諦めていたが、このハンドコントロールによって、石垣島でも旅行に行くことが可能になった。

 

しかも石垣島に来て、車いす利用者の私がマリンスポーツのシュノーケリングやマングローブを楽しむためのカヤックに乗ることなど、「できない」と思っていたことが「できる」に変わることで、車いす生活による生きがいを感じることになった。

 

こういったことを多くの車いす利用者にはまだあまり知られていない。知り合いの車いす利用者である山田ひろ子さん(仮名)は、年に1度沖縄に行くのを楽しみにしていて、先日初めて石垣島へ行ったものの、手動運転装置付レンタカーを貸してくれる業者がなかったために、タクシーを手配しなければならなかったとのこと。そこで今回の情報をお伝えしたら、そんなものがあることを初めて知ったと驚いていた。

最近では車いす利用者以外の人にも重宝されるアイテムへ

このアイテムを製造した㈱ニコ・ドライブの神村社長は、ご自身も車いす利用者であり、車の運転が大好きだったことから、同じ立場の車いす利用者にも手動運転装置を使っていただければ行動範囲が広がるだろうという思いから作った会社である。実際に私も含め多くの車いす利用者が、このニコ・ドライブ製のハンドコントロールを利用している中で、最近では車いす利用者だけでなく、脊柱管狭窄症・糖尿病・ヘルニアの病気を発症した方々が、足がしびれるので手で運転できるものを探して購入されるケースが多くなっていたり、また毎日営業で車の運転をする人が、足を骨折したことで、ハンドコントロールがあれば、仕事にも影響が出ないといった声もあると話してくれた。

 

今までは足でアクセル・ブレーキを踏むのが当たり前でありながら、病気やケガをきっかけに運転を諦めているような方にとって、朗報となるアイテムになっている。車いす利用者が運転するように、一般の人でも普通免許さえあれば手動運転装置を使って運転することは道路交通法上においても問題がない。

 

この持ち運び可能な手動運転装置「ハンドコントロール」が普及していくことで、全国各地への旅行が実現するようになるだろう。今までできなかったことが解決されて、できる・楽しめる社会に変わっていくことを期待していきたい。そして2020年の東京五輪・パラリンピック開催に向けて国内のバリアフリー化がより一層加速していくことを願っている。

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