「完璧じゃなくていい!商業施設のバリアフリーは“ゼロからの脱出”が価値になる」
バリアフリーアドバイザーの白倉栄一です。
商業施設のバリアフリー化を進めようとしても、潤沢な資金がある企業を除けば、多くの経営者が直面する最大の課題は「お金」ではないでしょうか。
それでも、「車椅子を利用している人の役に立ちたい」と考えている経営者の方がいらっしゃるのも事実です。
そんなときに意識していただきたいのが、“完璧主義にならない”という視点です。
今回はその理由と考え方についてお伝えします。
「誰でも完全に利用できる」ことを目指すと、動けなくなる
「すべての人に優しいお店にしたい」と思う気持ちはとても素晴らしいものです。
しかし、現実的には「万人対応」は非常に難しいことでもあります。
なぜなら、障害にもレベルがあり、必要とされる設備や対応も大きく異なるからです。
それに対応するには、十分な予算やスペースが必要です。
特に新築物件でなければ、後から完璧に整えるのは非常に困難です。
少し極端な例を挙げてみましょう。
ある施設では、10人中0人の車椅子ユーザーも利用できないという状況でした。
段差が2段以上あり、通路は狭く、バリアフリートイレもない。
誰かがサポートしても入店が難しい状態です。
そんな状態でも、“完璧”を目指さなくても、一歩を踏み出すことで大きな変化が生まれます。
ゼロから1へ。これが最初の成功
ある経営者が、既存施設をできる範囲でバリアフリー化しました。
段差にはスロープや段差解消プレートを設置し、どんな車椅子でも入りやすいよう工夫されました。
通路も最大限広く取ったものの、大型の電動車椅子では通行が難しい箇所がありました。
トイレも車椅子対応にはなったものの、一部の車椅子では旋回できず利用困難だったとのこと。
その結果、10人中6人の車椅子利用者が来店可能になりました。
確かに、残りの4人が利用できなかったことは残念です。
しかし、“ゼロ”から“6”に変わったというのは、大きな前進です。
この6人は、今まで利用できなかった場所に「行けるようになった」ことに、大きな価値を感じているはずです。
できる範囲の工夫でも「選ばれる店」になれる
企業経営には、改修工事に充てられる予算に限りがあります。
民間企業であれば、費用対効果を見ながら意思決定をするのは当然のことです。
想いがあっても、すべてに対応できないというのは、ある意味当たり前の話なのです。
私もかつて企業の人事総務課長として、経費管理に携わっていた経験があります。
経営は「守り」だけでなく、「攻め」の視点も大切です。
バリアフリー化は、単なるコストではありません。
利用者が1人増えるということは、その方の家族・友人・同僚も訪れる可能性があります。
「行ける場所が少ない」という現状があるからこそ、「またあのお店に行きたい」と思っていただけるのです。
これは立派な集客施策であり、社会貢献でもあります。
だからこそ、完璧を目指すよりも、「まずはゼロを脱する」取り組みこそが求められています。
あなたのお店に来られなかった人を、1人でも来られるようにする。
その小さな一歩が、結果的に大きな変化をもたらします。
ぜひ、できるところから一歩を踏み出してみてください。
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