今こそ求められる“選ばれる店舗・施設”のバリアフリー化|現場経験から見た実態と改善のヒント
バリアフリーアドバイザーの白倉栄一です。
バリアフリー対応はもう「一部の人のため」だけではありません。
超高齢化社会のいま、誰にとっても快適なサービスづくりが求められています。
このシリーズでは、企業経営者の皆さまに向けて、バリアフリー導入のヒントや事例を、経営目線でわかりやすくお伝えしています。
バリアフリーは、選ばれる理由になる時代。
ぜひ貴社の経営にお役立てください。
POINT|超高齢化時代にバリアフリーは“選ばれる条件”になる
現在、日本は超高齢化社会に突入しています。
高齢者は3500万人以上。
平均寿命は女性87歳・男性81歳ですが、健康寿命はその10歳以上手前になるとも言われています。
団塊世代も健康寿命の年齢に近づいており、今後車椅子利用者や移動に配慮が必要な方は確実に増えていきます。
10年前と比べても街中で車椅子利用者を見かける機会は明らかに増えました。
これからはさらに増加傾向になるのは間違いありません。
だからこそ、店舗や施設のバリアフリー化は、今後必須の取り組みとして求められていくのです。
今回は私自身の経験から、バリアフリー化の重要性と具体的な課題・改善のヒントをお伝えします。
バリアフリースポットを調査したきっかけ
私がバリアフリースポットの調査を始めたのは2005年から。
きっかけはある宿泊時の苦い経験でした。
友人の見舞いのため静岡県へ向かう途中、横浜に宿泊した際、ネットで見つけたホテルの「バリアフリールーム」を予約。
しかし現地に行ってみると、単に部屋が広いだけで、トイレも風呂も車椅子で利用不可。
段差があり、引き戸も狭く、移動がままならない部屋だったのです。
ホテルに相談しても「我慢してください」と言われ、止むを得ずペットボトル対応で一夜を過ごすという体験をしました。
この経験から「せめて正確な情報発信があれば、同じような思いをする人を減らせるのでは」と考え、
車椅子ユーザー自身の目線で情報発信を始めました。
以来、休日を活用して調査を重ね、全国47都道府県で1000件以上のスポットを紹介しています。
(詳しい調査内容は こちら でもご覧いただけます)
トイレにおけるバリアフリーの課題
最近ではさまざまなサイトで「バリアフリー可」と表示されていることが増えました。
しかし、実際に現地に行ってみると表示と現実が大きく異なるケースが目立ちます。
特に多目的トイレは、「使えるはず」と思って行ってみたら、
- 車椅子で転回できない
- スペースが狭すぎて扉が閉められない
- 手すりが設置されていない
などの設計ミスや安全性の欠如がよく見受けられます。
また手すりが片側だけというケースもあり、利用者の障害レベルによっては危険な状況になることもあります。
こうした問題は設計段階での配慮不足が原因であり、
「作ってから改修する」にはコストもかかるため、最初から車椅子ユーザーやベビーカー利用者の声を取り入れることが重要です。
トイレのバリアフリー設計については、私の発行している 無料PDF「バリアフリートイレ設置ノウハウ」 に詳しくまとめています。
ご興味のある方はぜひご活用ください。
ダウンロードは こちら から。
車椅子ユーザーにとって段差は大きなバリア
車椅子ユーザーにとって段差の有無はとても大きなポイントです。
1cm以下の段差であれば前輪キャスターを持ち上げずに通過できますが、
1cm以上になると前輪を持ち上げる動作が必要になります。
しかし、頸椎損傷など手が不自由なユーザーにとっては、これが非常に困難。
段差1cmが大きな障壁になる場合もあるのです。
「これくらいなら大丈夫だろう」と思って設計してしまうと、実際には使えない施設になってしまいます。
せっかく費用をかけて作ったのに利用できない → ネガティブな口コミになる → イメージダウン。
こうしたリスクを防ぐには、事前に車椅子ユーザー視点で確認することが重要です。
駐車場におけるバリアの課題
身障者用駐車スペースのサイズは、
横幅2.5m+乗降スペース1m=計3.5mが目安とされています。
私は以前、車で日本一周バリアフリースポット調査を行いましたが、身障者用駐車スペースは場所によって対応が大きく異なります。
問題としてよくあるのは、カラーコーンを置いてスペースを塞いでしまうケースです。
確かに一般車両の利用を防ぐ意図はわかりますが、実際に障害者が利用しようとした際に使えないという矛盾が生まれます。
そのたびに店舗に電話をしてカラーコーンをどかしてもらう手間は、ユーザーにとって大きな心理的負担です。
一方、最近ではリモコン式の駐車場ロックなどの導入例もありますが、コスト面の課題もあり広く普及しているとは言えません。
こうした駐車場の扱い1つ取っても、実際に車椅子ユーザーの利用動線を想定した設計・運用が求められます。
車椅子ユーザーに必要な情報が意外と伝わっていない現実
車椅子ユーザー同士で話をしていると、
「えっ、そんなことができたんですか?」
「そういう情報があったなんて知りませんでした」
という驚きの声を聞くことが少なくありません。
つまり、有益な情報がうまく伝わっていないという現実があります。
これは発信する側の課題でもあり、受け取る側の情報収集の姿勢にも課題があります。
「待っていても情報は得られない」、だからこそ自ら探す・学ぶ姿勢が大切なのです。
たとえば、私が活用している健康機器には、脊髄損傷者でも立位姿勢でトレーニングできるものがあります。
こうした機器の存在や活用法は、イベント(国際福祉機器展など)に行ったり、ネットで情報収集したりすることで知ることができます。
今後はips細胞などの再生医療も進化していき、治療法の選択肢も広がっていくでしょう。
だからこそ、情報を発信する側・受け取る側、双方がもっと積極的に交流して、
バリアフリー社会の実現に向けて知見を共有していくことが求められるのです。
バリアフリー対応は「お金がかかる」から「お客さまに選ばれる理由」に変わる時代です。
まずはできるところから、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
このシリーズでは、今後も経営に役立つバリアフリーの知恵や事例をご紹介していきます。
ぜひ次回もお楽しみに!
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